■定年退職後に未経験者が飲食業に初参入するのは危険!」とか、

■素人が安易に手を出してないけない「必ず地獄をみる」業種の代表格が飲食業!であるという記事や書籍を読む機会が増えました。

実際、私の身の回りでも定年を待たずに長年の希望であった飲食店を開業するも、物件取得費、内装費、家具・備品購入などでほぼ現金(主に退職金)が底をついてしまい、お店は続けたいのに「お金が続かず」閉店することになった元サラリーマンがいました。この場合、すぐにこの物件を居抜で引き継いでくれる方がいらっしゃれば、空家賃や原状回復費用など支払うことなく「脱出」することは可能ですが、そうでなかった場合はまさに「地獄」を見ることになるでしょう。投資と回収という、恐らくサラリーマン時代にもさんざん叩き込まれ意識しながら仕事をされていたのだと思われますが、ご自身が起こされたご商売ではあまり考えられなかったのでしょう。不思議な現象ですが、この手のご相談は最近非常に増えてます。

確かに、飲食業に新規で参入することは気軽で簡単に見えてしまうかもしれません。近所でいつも心配してしまうほど暇を持て余している喫茶店を営むおじさんを見ていると「これって自分でも行けるんじゃ・・・」と考えたくなるのもわかります。ただ、表面には見えてこない</span>継続できている理由が必ずあるのですが、経験者・未経験者にかかわらずそれが見えないことが多い。世の中様々なビジネスが存在していますが、その中でも経営的に抑えるべき要素が非常に多い商売が「飲食業」だとも言えます。まずは、店舗のコンセプトづくりから始まり、①何を作って(メニュー商品の企画や仕入れ)、②いくらで(生産管理や原価管理)、③どこで(立地選定・物件所得)、④誰と(人事管理)、⑤誰に(マーケティング)、⑥どんな風に売るのか(店の業態選定)?そして、それらに⑦いくら投資してどれくらいの期間で回収するのか(資金調達、事業計画)?

ざっくり考えるだけでもこれだけの要素を、しかも最初は個人で始めるとするならば「お一人で」やらなければなりません。一企業で役員経験がある方でも、また飲食業やホテル業で長年マネジメントを経験されている方でも、経営者として求められることがこんなにもあるものかと、初めての方は必ず驚かれます。

下のグラフは、厚生労働省「雇用保険事業年報」を基に算出される開廃業率です。飲食・宿泊サービスに限定した開業、廃業率を調べてみると、開業率約9.7%、廃業率6.4%弱・・・どちらの数値も全産業中1位。

(注・・・雇用保険事業年報をもとにした開廃業率は、事業所における雇用関係の成立、消滅をそれぞれ開廃業とみなしている。そのため、企業単位での開廃業を確認出来ない、雇用者が存在しない、例えば事業主1人での開業の実態は把握できないなど個人経営の飲食店などは含まれない為、数値はあくまで一つの目安として認識ください)。

飲食業界は毎年毎年、新規参入者と廃業していく退場者が激しく入れ替わる「レッドオーシャン」です。

10年以上継続実績のある飲食企業の買収

今現在経営者である方や将来起業したいという経験者の方にとっては実はチャンスが転がっている、参入しやすい業界でもあります。「ゼロ」からの起業ではなく、既存企業(オーナー経営者が高齢で事業を継承してくれる方を探していらっしゃる会社)に入り込み、そこで会社ごと「買収」してしまうという方法、つまりM&Aをお勧めしたいと思います。10年生き残れるお店が1割程度である事実は、新規参入するには非常に高い壁。でも裏を返せば10年続いたお店を引き継ぐことができれば大きなチャンスはあると考えられる。

こんな統計もあります。

東京商工リサーチの「休廃業・解散企業動向調査」によると、売上高経常利益率が判っている50%以上の企業が黒字のまま廃業しているという事実が判明しました。日本の企業数が400万社余り、そのうちの9割以上が中小零細企業です。そのうちの実に7割近くの企業が抱えている大きな課題が「後継者不足」。この事実に、飲食サービス業界の発展、雇用創出、社会への貢献などと様々な面からの考えよりも何よりも先に、単純に「もったいない」と思ってしまった。

買収価格の算出にはさまざま方法があるのですが、一般的には絶対的なルールはありません。「いくらで売りたい・買いたい」に対して、「いくらなら払う・売る」だけです。ただこれでは、売る方も買う方も広く情報を出して候補者を探せないので、一定のルールを決めていることが多いようです。

①バランスシート(BS)上の「資産」 - 「負債」 = 「純資産」

②営業利益3年~5年分の合計金額

①+②=買収・売却金額の目安・・・金融機関などから融資を受けた場合に回収期間の目安を基準に算出したもの

ここでは複雑な詳細についての説明は省きますが、一応の目安としては上記のようなものがあります。

では実際にどこに行けば「買うことができる会社」を探すことができるのか?下記参考までに飲食業関連の小規模M&A案件を探すのに便利なサイトをいくつかご紹介します。もちろんこれらは「ノンネーム」と呼ばれる匿名情報の概要が公開されている一部のサイトです。実際にはこれ以外にも多くの企業が地元の同業者へも相談できず、人知れず廃業していくこともめずらっしくありません。大手のM&Aファーム(例えば、M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク)が有名ですが、もっと小規模の案件を取り扱い、しかも飲食店に特化した仲介会社があります。

ウィット http://www.wit-consul.com/ ・・・飲食店に特化したM&Aアドバイザリー会社(2018年3月に飲食店.com で知られている株式会社シンクロフードと統合)

トランビ https://www.tranbi.com/  ・・・会社売買のマッチングサービスがネット上で可能なサイト。大小様々な案件が掲載

事業引継ぎ支援センター http://shoukei.smrj.go.jp/consultation/ ・・・公的支援として各都道府県に設置

結論として、M&Aというご自分の将来的なビジョンが描ける選択肢があることも頭の片隅に入れておいてください。もし転職を考えているという経験者がいらっしゃれば、一度立ち止まってじっくり考えることも必要では。目の前の転職を、転職先の会社が自分の受け皿として相応しいかどうかを考えるだけでなく、自分が将来経営者となってやってもいいかどうか見極めてやるという大きなビジョンをもって動いても決しておかしくない時代になりつつあります。